HOME > 遍路・巡礼 > 四国遍路第一章「目次」 > 3 修行の道
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24番「最御崎寺」は、車遍路をしていた時に法輪寺でジサマに尺八を勧められてから、次の区切り打ちを始めた最初の寺で、尺八を吹き始めた場所でもあります。
いんやあぁ~・・・悩みましたなぁ~・・・札所寺で尺八を吹こうか、どうしょうか・・・
夜も寝んと、やろうか、やるまいかと・・
やる決心をして「最御崎寺」へ行っても、グスグズしとりましてなぁ・・なんせ気の弱い性格なもんでして・・
はよ参拝客が、どっかへ行っちまわんかなぁ・・
できれば人が少ない時を選んでやりたいなぁ・・
吹き始めた、とたんに寺の人が飛んで来て「何やっとんじゃあ!!・・ 他でやれ!!・・じゃあぁぁかぁしい!!」と怒鳴られちまったら、弱るなぁ・・何と言い訳しようかなぁ・・・
あぁでもねぇ・・こおでもねぇ・・・ウダウダ・・・グズグズ・・・
越後屋は自分の参拝をトットと済ませております。
あんたは、いいよなぁ・・・恥かかんでええから・・・
越後屋の顔には、他人のフリするから勝手に恥かいとれ・・・イヤなら、止めっちまぇ・・・と顔にデッカク書いてあります。
こっちは、出来る事なら、やっぱり「やんぴ」しょうかなぁ・・と切実に考えとるのにぃ。
あいつは励ますとか、支え合うとか、助け合おうとか・・そおいう事をしねぇヤツじゃ。
いくら待っていても、参拝者の数はあんまり変わらず、弱ったなぁ・・。
しょうがねぇ・・やっちゃおうか・・・
本堂へ行き、ギュッと目をつむり、吹き始めました。
うむむぅ・・出足の最初の一発目の音が・・まずい。
足が小刻みに震え始めます・・アカン・・みっともねぇ・・・
それに比例して音も震え・・・うっ・・音が・・出ん・・・(;_;)
完全に暗符して何回も吹いてた曲なんじゃが、家で練習して吹いとる時とは全然ちがう。
せめて、曲を間違えんように・・・あっ・・音を間違えた・・・頭に血が上った状態です。
そこらをウロついとる参拝者と絶対に目を合わせんように、下を向いてコソコソと、恥ずかしそうに次の大師堂へ行きましたが、これもさんざんな演奏でした。
それでも、恥を忍んで四国遍路をしながら尺八を吹奏し続け・・・よぉ~恥をさらしとったなぁ・・・今思い出しても・・・
あっ・・どこの寺でも、何を、おっ始めたんじゃ・・という顔をされた事が有りますが、好意的に接してもらえた方が多く、叱られた事は一度もありませんでした。
尺八がそれらしく聞こえて、恥かしくない程度に落ち着いて来たのは、高知県が終わって愛媛県に入った頃からです。
以後の尺八吹奏には、遍路中に「庵の坊さん」に出会って教えられた影響がかなりあり、同じく一巡中に出会った「老遍路」で、さらに磨きがかかったと思います。
遍路しながら尺八を吹き続ける事に対する疑問・悩みを、この二人に言うと(尺八の技法的な事は教わる事はできませんが)、別の角度から聞きたい事の本質を見事にズバリと指摘し、その解答とこれからの修行の道標を教えてくれた最大の師匠でした。
この二人以外にも、これぞと思う寺の住職や永年遍路しとる人達とも話し、その都度いろんな事を教わりました。
この科学に囲まれた時代でも、そおいう人達が今も遍路しており、小汚いカッコウしとるかもしれまへんが、人は見かけによりまへんでぇ。
時代劇のドラマ等に、剣術修行している人が山の中で仙人とか老人に出会って、剣術の奥義を教わり開眼するというストリーが有りますが、私のように教わる師匠を持たない者にとっては、まさしくそれと同じでした。
歩き一巡で再び最御崎寺・本堂で吹いた時、「なんか、サミシそうな曲やなあ・・次、大師堂へ行きよるから聞いてみよ」と二人の若いアンチャンが側で話してるのが聞こえました。
しかし、その時はちゃんとマジメに般若心経を唱えてから尺八を吹いてましたので、経を詠み終えるのが待ちくたびれて行っちまいました。
残念やったなぁ・・もおチット待てばえかったのに・・・(^_^;)
三巡目は夏の夕暮れ時で、参拝客も居なく納経所のジサマもヒマそうに座っており、自分の尺八参拝が終わった後、しばらく納経所近くの石の椅子に座って尺八を吹いてました。
静かで、木陰に囲まれて涼しく・・良いでんなぁ・・
たまに参拝者が来て、何やってんじゃとジロジロ見て行きますが、立ち止まってまで聞く物好きな人もおらず気になりまへん。
そのうち、団体客のオバチャン達が遠くからキヤッキヤッと笑いながら登って来るのが聞こえ、鐘をゴンゴンと次々に鳴らし始めます。
タダなモンなら、せっかく来たんじゃから、何でも経験せんとアカンと思って鐘を突いてるのでしょう。
本堂前でローソクやら線香をザワザワ言いながら立て、チラッチラッ・・と尺八を吹いてるこちらを見ております。
先達がオバチャン達に呼びかけて本堂で参拝し始める頃、曲の途中でしたが区切りの良い所だったので止めました。
オバチャン達の参拝が終わり、ゾロゾロ大師堂へ歩いて行く参拝風景をボケェッ~と見物していた私に先達が近寄って来て「歩きですか?」と聞き、良い尺八を聞かせてもらったと、礼をわざわざ言いに来ました。
大師堂でオバチャン達が、再びザワザワと線香や蝋燭を立てている時、もう邪魔にならんから良いだろうと、曲を終えた所から吹き始めました。
すると、先達が再び戻って来て「これで何か冷たい物を・・・」と言いながら、テーブルに置いてあったリュックの下にソオッーッと千円札を入れます。
曲の途中だったので、軽く頷いて礼をし吹き続けました。
団体の参拝が終わって帰る時、先達がそのまま吹き続けてる私に立ち止まって合掌してから行くもんだから、他のオバチャン達も、次々とマネして合掌して行きます。
あんらぁぁ・・そんな事されんでも、ええのに・・心が痛むなぁ・・・
恥ずかしながら「YouTube」に尺八曲「手向」を載せており、聞いて頂ければ泣いて喜びます。
当「遍照の響き」ホームページに掲載されている写真がで販売されています。
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